INSIDE OCEANS

何度も壁を乗り越えてきた生え抜きレフティー。主力選手になるため、水谷颯真は静かに闘志を燃やす。

2020.06.12

コラム

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名古屋オーシャンズ



F選抜を経て念願のトップ昇格を果たすが……


大きな決意を胸にFリーグ選抜の選手としての活動が始まるが、シーズン開幕前のサテライトとの練習試合で敗れてしまい「この1年間えらい(大変な)ことになりそうだな」と危機感を感じた。

オーシャンカップでは立川・府中にまたも負けてしまうがスコアは2-3。「また負けた。いつになったら勝てるんだ」。そう感じつつも一定の手応えもあった。

その後のプレシーズンマッチでは後にF2で優勝するボアルース長野に3-1で勝利を収め、個人としてもチームとしても自信をつけたが、それは開幕戦でへし折られた。

シュライカー大阪に2-6で大敗したところから始まり、3連敗を喫してしまう。周囲からは「一勝もできないのでは」、「F選抜はF2で戦った方が良かったんじゃないか」そんな声も聞こえてきた。

そんな雑音を振り払うかのように初めてオーシャンアリーナで行われた試合で初勝利を収める。相手は2年前の全日本選手権で敗れた浜松。5-0で大勝した翌週、ペスカドーラ町田を3-0で打ち破り快進撃の立役者の一人になる。

水谷はリーグ戦全33試合に出場し、オーシャンズとの劇的な引き分けや立川・府中戦での逆転勝利を経験した。

気が付けば、線の細かった身体も分厚くなった。それでも自分の中での手応えは「まだまだ」と感じていた。そんな中でトップチームへの昇格が決まり幼いころからの念願が叶った喜びと不安が入り混じった。

開幕戦では、負けられないチームの選手として一瞬のミスも許されないため「緊張してしまった……」。

チーム内ではベンチ入りできるかできないかの瀬戸際の戦いだった。そんな中、8月に自身初の国際大会を経験する。

AFCフットサルクラブ選手権では外国籍の選手が一人しか出場できないため、数少ない左利きの水谷に大きな期待がかけられた。

初戦のアルダフラFC戦では水谷自身もゴールを決めた。しかしチームが勝ち進んでいくことで当然のことながら対戦相手のレベルは高くなっていく。

準決勝で対戦するタイ・ソンナムは、オーシャンズにとって昨シーズン敗れた因縁の相手だった。2点を先制していい流れを迎えていたが、水谷のミスから与えてしまったコーナーキックで1点差に。

相手に大きなきっかけを与える失点の原因を作ってしまい、ベンチに下がった水谷はビブスを叩きつけ普段は見せないような悔しさを表に出した。

結果的に、チームは3-1で勝利。決勝では水谷が先制点のアシストをマークしてアジア制覇に貢献した。

優勝後、水谷は「この大会で自分の実力が急激に伸びたわけではないので浮かれることなく地に足をつけたい」と慢心はなかった。

日本に戻ると、外国人選手たちとポジション争いをする日常が始まった。しかし立場は大きく変わらず出場機会は増えなかった。

初めてのプレーオフ決勝では、第1戦は出番が回ってこなかった。それでも、下を向くことはなく試合後にオーシャンアリーナのサブアリーナで黙々と身体を動かした。

翌日の第2戦、水谷はピッチに立ったが試合はもう終盤。点差もついてほぼ試合が決まっている状況での出場だった。

「優勝できて嬉しい気持ちが一番強いです。でもそれと同時に、試合に出られなかった悔しさも同時に感じました。まだまだ身体も強くないですし、フットサルの技術においてもオーシャンズの他の選手と比べて劣っている。そういうところを良くしていきたいです」

トップチームの選手として初めてリーグ優勝を経験したが、満足はしてない。

今シーズンも厳しいメンバー争いが待っているのは間違いない。だが今までも何度も壁を乗り越えてきた。いずれは、水谷がオーシャンズの先頭に立ち、オーシャンズを優勝に導くために。勝負の2年目が始まる。
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