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名古屋オーシャンズ
11月10日(土)、武田テバオーシャンアリーナで行われた共同開催名古屋ラウンドの2試合目、Fリーグ2019/2020 ディビジョン1 第25節。名古屋オーシャンズはバサジィ大分に3-1で勝利を収めた。
「素晴らしいゲームになることは間違いない」。フエンテス監督が前日にそう話していたとおり、首位決戦にふさわしいハイレベルかつ緊張感のある戦いになった。
対戦前の両者の勝ち点差は「5」。仮に黒星を喫してしまえば、その差が「2」に縮まる。そんな重圧の掛かる一戦に向けて、指揮官はこれまで以上に周到に準備を進めて、実行した。フエンテス監督は「安定を求めた」と表現したが、それを如実に語るのは、“切れ目のないローテーション”という交代策だった。
トップカテゴリーにおけるフットサルの交代方法は、主に2種類ある。「セット替え」と「ローテーション」だ。2セットないしは3セットの4人をベースにセット単位で交代する前者に対して、後者は1〜3人ずつを入れ替えていくというもの。選手個々の特徴を踏まえた4人で構成する「セット替え」は、ユニットの特性を最大限に引き出すことができるため、多くのチームが採用している方法。一方で、戦況や局面を見極めてその都度、最適な構成を考えて交代していく「ローテーション」は、監督の采配が鍵を握るハイレベルなものだ。
オーシャンズは元来、どのメンバーがピッチに立っても、同じようなクオリティを出せるという選手層のメリットがあるため、ローテーションを採用するケースが多い。ビクトル・アコスタ監督、ペドロ・コスタ監督時代も、2人ずつ組み替えていくローテーションで最強の布陣を形成する戦いが多分に見られた。余談だが、オーシャンズを打ち破った2016シーズンのシュライカー大阪も、主力6人から8人を入れ替えながら戦う「超ローテーション」戦略を採用して、無類の強さを誇っていた。ただし、デメリットも大きい。
起用する選手が偏り主軸の負担が増えることと、何よりもバランスを保つのが難しいという点だ。
「どのメンバーがピッチに立っても同じクオリティを出せる」と記したが、選手それぞれの特徴は異なり、なおかつ多少の実力差がある。フエンテス監督はこの試合、安定感、つまり、1秒の隙も生まずにどの時間帯も同じような質と強度、狙いを持って戦うために、「6+3人」の9人で試合を回し切るローテーションに踏み切った。
先発はヴァルチーニョ、ラファ、吉川智貴、安藤良平。そこに、ペピータと西谷良介を加えた6人が試合の中心となった。2分、3分、5分、8分、10分、12分、13分、14分……オーシャンズは先制点を許した時間まで、1人もしくは2人だけ選手を入れ替えて、ピッチの4人を構成していった。
相手がハーフ付近に守備ラインを設定してきていたこともあり、オーシャンズがボールを保持しながら、ゲームを進めていく。途中、橋本優也、星翔太、八木聖人を投入して、前線からのプレスや前線の起点、サイド攻撃のバリエーションを見せながら、一定のリズムと規律を保った戦いで緊張感と安定感を生み出していった。
14分、左CKから大分のエース・仁部屋和弘に強烈な反転シュートを決められると、相手はさらに守備的なセットにしてロースコアのゲームに持ち込んでくる。そこでオーシャンズは、星、ペピータ、ヴァルチーニョ、吉川という、3-1ならぬ“1-3”という、より攻撃的なセットを投入して前線に厚みを出していく。
すると、ビッグチャンスは前半終了間際に訪れる。残り3秒、ゴール前右でFKを獲得。助走をつけてボールに向かった吉川がピサーダで(ボールを踏んで)左に流すと、右から走り込んだペピータが左上に強烈なシュートを突き刺した。今シーズン、多彩なパターンからゴールを量産してきた得意の位置から同点弾を決めた。
後半に入っても、大分がピヴォに入ったところで挟み込んでくるカバーリングと守備の強度を徹底してきたことで、オーシャンズは逆に、サイドからの攻撃に勝機を見出す。3分、右サイドでボールを受けた安藤が巧みなキープで相手と入れ替わると、「シュートを狙いにいった」(安藤)中央へのグラウンダーのボールに反応した相手DFが足を出して、そのままゴールへ。公式記録で安藤のゴールと認定されたオウンゴール気味の逆転弾が決まった。
1点差のまま進んだ試合は、オーシャンズが決定的なシーンを作りながらも、相手ゴレイロの好セーブもあって均衡を崩せない。するとフエンテス監督は、31分に再び“1-3セット”を投入して圧力を強める。それでも、相手の守備の強度が高くゴールは生まれない。ハイレベルな試合は緊迫感を保ったまま終盤へともつれ込んだ。
しかし、スコア上の優位はオーシャンズにある。3セットで回してくる大分も、より攻撃力の高いスペシャルセットを組んで対抗してきたが、今度は星、ヴァルチーニョ、安藤、吉川という、前線、後方のどの局面でも守備の強度を出せる布陣で対応。相手がしびれを切らしてパワープレーに出てくる37分まで耐え抜いた。
迎えた38分、パワープレーでサイドラインを割ったボールを安藤が素早いリスタートで自陣ゴール方向に出すと、関口優志が左足ダイレクトでロングキック。大きな弧を描いたボールがゴールへと吸い込まれ、リードを広げることに成功した。
その後もパワープレーを継続してくる相手に対して、オーシャンズは安藤、ヴァルチーニョ、吉川、ラファを並べて対応。攻撃時は安藤に代わって西谷を投入しながらバランスを保ち、最後まで試合をコントロールした。
首位決戦を3-1で制したオーシャンズは、大分との勝ち点差を「8」に広げた。敵将・伊藤雅範監督も「相手が自分たちを上回った。名古屋オーシャンズを祝福したい。これでリーグ1位は現実的な目標ではなくなった」と完敗宣言。選手の適材適所と、試合の流れや戦況を見極めたフエンテス采配が完璧に決まって、文句なしの勝利を収めた。
「常に1人はゲームを感じている選手をピッチに残しておきたかった。休憩はしているけどゲーム感覚が残っているという状況を重視しました。そのなかでオフェンシブな選手、ディフェンシブな選手、パサー、バランサーと常に組み合わせを考えていました」(フエンテス監督)
野球で言えば、1番打者から9番打者まで一分の隙もないオーダーを組む“切れ目のない打線”のように、オーシャンズはまさに“切れ目のない交代策”で、重要な一戦を勝ち切ってみせた。
敵将に完敗を宣言させたフエンテス采配
「素晴らしいゲームになることは間違いない」。フエンテス監督が前日にそう話していたとおり、首位決戦にふさわしいハイレベルかつ緊張感のある戦いになった。
対戦前の両者の勝ち点差は「5」。仮に黒星を喫してしまえば、その差が「2」に縮まる。そんな重圧の掛かる一戦に向けて、指揮官はこれまで以上に周到に準備を進めて、実行した。フエンテス監督は「安定を求めた」と表現したが、それを如実に語るのは、“切れ目のないローテーション”という交代策だった。
トップカテゴリーにおけるフットサルの交代方法は、主に2種類ある。「セット替え」と「ローテーション」だ。2セットないしは3セットの4人をベースにセット単位で交代する前者に対して、後者は1〜3人ずつを入れ替えていくというもの。選手個々の特徴を踏まえた4人で構成する「セット替え」は、ユニットの特性を最大限に引き出すことができるため、多くのチームが採用している方法。一方で、戦況や局面を見極めてその都度、最適な構成を考えて交代していく「ローテーション」は、監督の采配が鍵を握るハイレベルなものだ。
オーシャンズは元来、どのメンバーがピッチに立っても、同じようなクオリティを出せるという選手層のメリットがあるため、ローテーションを採用するケースが多い。ビクトル・アコスタ監督、ペドロ・コスタ監督時代も、2人ずつ組み替えていくローテーションで最強の布陣を形成する戦いが多分に見られた。余談だが、オーシャンズを打ち破った2016シーズンのシュライカー大阪も、主力6人から8人を入れ替えながら戦う「超ローテーション」戦略を採用して、無類の強さを誇っていた。ただし、デメリットも大きい。
起用する選手が偏り主軸の負担が増えることと、何よりもバランスを保つのが難しいという点だ。
「どのメンバーがピッチに立っても同じクオリティを出せる」と記したが、選手それぞれの特徴は異なり、なおかつ多少の実力差がある。フエンテス監督はこの試合、安定感、つまり、1秒の隙も生まずにどの時間帯も同じような質と強度、狙いを持って戦うために、「6+3人」の9人で試合を回し切るローテーションに踏み切った。
先発はヴァルチーニョ、ラファ、吉川智貴、安藤良平。そこに、ペピータと西谷良介を加えた6人が試合の中心となった。2分、3分、5分、8分、10分、12分、13分、14分……オーシャンズは先制点を許した時間まで、1人もしくは2人だけ選手を入れ替えて、ピッチの4人を構成していった。
相手がハーフ付近に守備ラインを設定してきていたこともあり、オーシャンズがボールを保持しながら、ゲームを進めていく。途中、橋本優也、星翔太、八木聖人を投入して、前線からのプレスや前線の起点、サイド攻撃のバリエーションを見せながら、一定のリズムと規律を保った戦いで緊張感と安定感を生み出していった。
14分、左CKから大分のエース・仁部屋和弘に強烈な反転シュートを決められると、相手はさらに守備的なセットにしてロースコアのゲームに持ち込んでくる。そこでオーシャンズは、星、ペピータ、ヴァルチーニョ、吉川という、3-1ならぬ“1-3”という、より攻撃的なセットを投入して前線に厚みを出していく。
すると、ビッグチャンスは前半終了間際に訪れる。残り3秒、ゴール前右でFKを獲得。助走をつけてボールに向かった吉川がピサーダで(ボールを踏んで)左に流すと、右から走り込んだペピータが左上に強烈なシュートを突き刺した。今シーズン、多彩なパターンからゴールを量産してきた得意の位置から同点弾を決めた。
後半に入っても、大分がピヴォに入ったところで挟み込んでくるカバーリングと守備の強度を徹底してきたことで、オーシャンズは逆に、サイドからの攻撃に勝機を見出す。3分、右サイドでボールを受けた安藤が巧みなキープで相手と入れ替わると、「シュートを狙いにいった」(安藤)中央へのグラウンダーのボールに反応した相手DFが足を出して、そのままゴールへ。公式記録で安藤のゴールと認定されたオウンゴール気味の逆転弾が決まった。
1点差のまま進んだ試合は、オーシャンズが決定的なシーンを作りながらも、相手ゴレイロの好セーブもあって均衡を崩せない。するとフエンテス監督は、31分に再び“1-3セット”を投入して圧力を強める。それでも、相手の守備の強度が高くゴールは生まれない。ハイレベルな試合は緊迫感を保ったまま終盤へともつれ込んだ。
しかし、スコア上の優位はオーシャンズにある。3セットで回してくる大分も、より攻撃力の高いスペシャルセットを組んで対抗してきたが、今度は星、ヴァルチーニョ、安藤、吉川という、前線、後方のどの局面でも守備の強度を出せる布陣で対応。相手がしびれを切らしてパワープレーに出てくる37分まで耐え抜いた。
迎えた38分、パワープレーでサイドラインを割ったボールを安藤が素早いリスタートで自陣ゴール方向に出すと、関口優志が左足ダイレクトでロングキック。大きな弧を描いたボールがゴールへと吸い込まれ、リードを広げることに成功した。
その後もパワープレーを継続してくる相手に対して、オーシャンズは安藤、ヴァルチーニョ、吉川、ラファを並べて対応。攻撃時は安藤に代わって西谷を投入しながらバランスを保ち、最後まで試合をコントロールした。
首位決戦を3-1で制したオーシャンズは、大分との勝ち点差を「8」に広げた。敵将・伊藤雅範監督も「相手が自分たちを上回った。名古屋オーシャンズを祝福したい。これでリーグ1位は現実的な目標ではなくなった」と完敗宣言。選手の適材適所と、試合の流れや戦況を見極めたフエンテス采配が完璧に決まって、文句なしの勝利を収めた。
「常に1人はゲームを感じている選手をピッチに残しておきたかった。休憩はしているけどゲーム感覚が残っているという状況を重視しました。そのなかでオフェンシブな選手、ディフェンシブな選手、パサー、バランサーと常に組み合わせを考えていました」(フエンテス監督)
野球で言えば、1番打者から9番打者まで一分の隙もないオーダーを組む“切れ目のない打線”のように、オーシャンズはまさに“切れ目のない交代策”で、重要な一戦を勝ち切ってみせた。